BD ハドソン川の奇跡 ☆☆☆

■ SULLY 2016年 アメリカ 96分
            (レンタル
TSUTAYA
■ 監督 クリント・イーストウッド
■ 原作 チェズレイ・‘‘サリー’’サレンバーガー
       ジェフリー・ザスロウ
■ 脚本 トッド・コマーニキ
■ 撮影 トム・スターン
■ 音楽 クリスチャン・ジェイコブ
       ザ・ティアニー・サットン・バンド
■ 主演 トム・ハンクス
      
アーロン・エッカート

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映画の原題は「サリー」。


サリー機長の判断と行動、その反芻と責任感を
公正な視点で描くイーストウッド監督の真骨頂
を感じさせる映画だ。

救出劇に熱狂する人々は大勢いるだろう。
事故調査委員会は検証と追求に努めるだろう。
機長は(副操縦士も)採った行動を何度も思い
起こし、プロとしてあれで良かったのか懊悩す
ることだろう。

それらも描きながら、イーストウッドは、プロ意識
を持った人間の敢然とした姿勢の美しさ、たくまし
さを、苦しさとともに伝えようとしたに違いない。


DVD 海と毒薬 ☆☆☆☆

■ 1986年 ヘラルド 123分
      (レンタル
TSUTAYA
■ 監督 熊井啓
■ 原作 遠藤周作
■ 撮影 栃沢正夫
■ 音楽 松村禎三
■ 美術 木村威夫
■ 出演 奥田瑛二
       渡辺謙
       田村高廣
       岸田今日子

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  熊井啓監督 渾身のフィルム




F大学病院で行われた外国人捕虜8名の生体解剖実験。


1、第一捕虜に対して血液に生理的食塩水を注入し、
  その死亡までの極限可能量を調査す。

2、第二捕虜に対しては血管に空気を注入し、その死
  亡までの空気量を調査す。

3、第三捕虜に対しては肺を切除し、その死亡までの
  気管支断端の限界を調査す。

 執刀、橋本教授、柴田助教授
 第一助手 浅井宏
 第二助手 戸田剛
 第三助手 勝呂二郎


「奴等、無差別爆撃をした連中ですよ。西部軍では銃
 殺ときめていたんだから、何処で殺されようが同じこ
 とですな。エーテルはかけてもらえるんだから眠って
 いる間に死ぬようなもんだ」

何が彼らをそうさせたのか。




実話から小説が

小説から映画へ

映画の力がひしひしと感じ取れる作品。




  
 

WOWOW 誘拐捜査 ☆☆☆

■ 解救吾先生 2015年 中国 107分 
      
(劇場未公開 WOWOWで放映) 
■ 監督 ディン・シェン(丁晟)
■ 脚本 ディン・シェン
■ 撮影 ディン・ユー
■ 音楽 ラオ・ツァイ
■ 出演 アンディ・ラウ(劉徳華)
       ワン・チェンユエン(王千源)
       リウ・イエ(劉燁)
      
ウー・ロウフー(吾若甫)

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日本劇場未公開という理由は何だろう。
犯罪映画ファンならずとも、観て損はないと
思わせる作品だ。





実際に中国で起きた俳優誘拐事件の映画化
で、拉致被害に遭った吾(ウ-)本人も脇役と
して出演しているのもお国柄なのであろうか。


映画で吾を演じるのはアンディ・ラウ。
主役である。

しかし、見方を変えれば主役はもう一人いる。
誘拐団首魁、華子(ジャン・ホワ)である。

この男、性、狷介固陋、狡猾残忍にして、他人
の命など毛ほどにも思わぬ氷の非情さを持つ。

彼の役を王千源(ワン・チェンユエン)という俳優
が演じている。

この俳優が素晴らしい。
太々しくて、緻密で、駆け引きの知恵にも長け
部下たちに蛇のごとく忌み恐れられている男
を自然に演じているのだ。

王千源がいなかったら、この映画の緊迫感は
出なかったのではないか。
この人の演技を楽しむだけでも、じゅうぶんに
この映画の価値はある。


映画 メルー ☆☆☆☆

■ MERU 2015年 アメリカ 90分 (イオンシネマ名古屋茶屋)
■ 監督 ジミー・チン
       エリザベス・チャン・ヴァサルヘリィ
■ 撮影 レナン・オズターク
       ジミー・チン
■ 音楽 J・ラルフ
■ 出演 コンラッド・アンカー(クライマー)
       ジミー・チン(カメラマン・クライマー)
       レナン・オズターク(カメラマン・クライマー)
       ジョン・クラカワー(クライマー)

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山に登らない人生なんて
       僕には想像できない


山岳ドキュメンタリー映画の最良作。


アルピニストの繊細な動作と心理の克明な描写。
再現ドラマにはない、実際の登攀記録の迫力。
山を知る者が撮った映像の鮮明さ。


映画は、ヒマラヤのメルーをめざす三人の乗る車がインド
山岳地帯の崖っぷちを疾走するシーンから始まる。


メルー中央峰のシャークスフィンと呼ばれる6600余mの峰。
これまで挑戦した世界のトップクライマーは20名。
しかし、直上ルートで頂きに立った者は一人もいない。


雪、氷、岩が連なる1200mをよじ登る体力と、テクニックと、氷
点下20度の狭い吊り下げテント内にいつ直撃するかしれぬ落
氷塊の不気味な音の恐怖をこらえ、凍ったクスクスの残飯を幾
食も口にする状況での堅忍。
そして、体調の思わぬ変化。


幾多の疲弊を経て、なお立ちはだかる500mの垂直花崗岩。
ボルトを打ち込む場所を誤るならば、剥がれた岩と一緒に三人
は1000mの氷壁を真っ逆さまに落ちていくだろう。
慎重に、冷静に、しかし時間とも戦いながら崖岩に取り付くコン
ラッド、ジミー、そしてレナン。

しかし、チームは頂上まであと100メートルというところでレナン
の体調不良が回復しないためにやむなく撤退。メルーの断念。
2008年のことである。

その後、三人に起こる三様の出来事。
冷静に、あるいは死に物狂いにそれを克服するクラーマーたち。
(このエピソードが登攀成功の喜びを倍加させる伏線となる)


2011年にふたたび三人の登攀者はメルーに挑む機会を得る。

そのさまを、カメラはとらえる。
アルピニストの行動の慎重さと明快さ。
トレーニングと体験で鍛えられた肉体と精神の様。
クライマックスを迎えようとする一歩、一歩。

頂上に初めて立った人間の口から吐き出される白い息。
全身を貫き震わせたであろう成就感に満ちた顔。
そして、険峻の美しさに輝くメルーの峰。


本物の山岳映画の誕生を心から祝福したい。


映画 からみ合い ☆☆☆

■ 1962年 松竹 108分 (シネマスコーレ)
■ 監督 小林正樹
■ 原作 南条範夫
■ 脚本 稲垣公一
■ 撮影 川又昂

■ 音楽 武満徹
■ 出演 岸恵子
       山村聡
       渡辺美佐子

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流行作家の原作を映画化すること。
それは昔も今も続いているが・・・。





遺産相続をめぐるストーリィは、文字を介して
イメージを膨らませる小説なら面白味があるか
もしれないが、視覚に訴える映画では現実ばな
れした絵空事のように思われ、作品の奥深くに
なかなか入っていけない。


死期が目の前に迫っているはずの山村聡が演じ
る裕福な老人の血色は良く、死への恐怖もほと
んど感じられない。

妻も、女秘書も、部下も、弁護士も、隠し子も、登場
人物全員が、金と色しか頭の中にないのは良しとし
ても、本気で策略を謀っているようには思えないミス
を皆が露呈する。


面従腹背に血道をあげる人間の姿を戯画的に描く
作品にしても小林正樹らしさを感じさせるはっと胸を
衝かれるような鋭さがない。

「人間の條件」三部作(59~61)と、「切腹」(62)との
間に撮られた「からみ合い」。
平凡なプログラムピクチャーとは、思いたくないのだが。



映画 黒い河 ☆☆☆

■ 1957年 松竹 114分 (シネマスコーレ)
■ 監督 小林正樹
■ 原作 富島健夫
■ 脚本 松山善三
■ 撮影 厚田雄春
■ 音楽 木下忠司
■ 出演 有馬稲子
       渡辺文雄
       仲代達矢
       宮口精二
       山田五十鈴

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監督小林正樹の第9作は、富島健夫の小説の映画化。

基地の町に生きる人々を描いたこの作品で注目したい
のは、登場人物を演じる俳優の存在感だ。

おんぼろ長屋の月光荘の住人たちに、宮口精二、菅井
きん、三戸部スエ、高橋よと、賀原夏子など芸達者な役
者をずらりとそろえ、一癖も二癖もある人間模様を見せ
る。


そうした俳優たちを更に上回る存在感を発揮するのが
町のチンピラ役の仲代達矢と、月光荘の因業な家主幹
子役の山田五十鈴の二人である。

仲代は、不敵を秘めた深い眼をギラつかせてたまらない
魅力をぷんぷんと撒き散らし、山田は、金歯を突き出しな
がらの高笑いが何とも滑稽で、不気味で、狡くて、喰えな
い人間を気持ちよく演じている。

仲代は4年後の61年に黒澤の「用心棒」で山犬のような
凶暴な臭いを漂わせた新田の卯之助役でさらに強烈な
存在感を発揮し、山田は同じく黒澤の「蜘蛛巣城」でマク
ベス夫人である鷲津浅茅の血塗られた狂人役で鬼気迫
る演技で観る者を魅了することになる。

役者には旬とでも言うべき、輝かしい時期があるのだろう。

「黒い河」は、仲代達矢と山田五十鈴の凄みある演技を
見ることのできる映画として記憶されてよい作品だと思う。

DVD どぶ ☆☆☆

■ 1954年 近代映画協会 114分 (レンタル TSUTAYA
■ 監督 新藤兼人
■ 脚本 新藤兼人 棚田吾郎
■ 撮影 伊藤武夫
■ 音楽 伊福部昭
■ 出演 乙羽信子
       宇野重吉
       殿山泰司

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フェミニストの新藤兼人

1954年製作の監督第6作。
主人公は乙羽信子が演じる知恵遅れの女ツル。
舞台は河童沼(どぶ)のほとりのバラック部落。

新藤はこの作品で、男の身勝手な享楽のために犠牲になって
いく女の姿を、社会の底辺に暮らす人たちのバイタリティととも
に、エキセントリックに描く。


ツルの面倒を見る徳さんにしても、ピンちゃんにしても、彼女に
ひどい仕打ちをした男たちとほとんど同じなのだ。

違うところがあるとすれば、ツルの遺体を目にした二人は、部落
の連中の面前で大声でわぁわぁ泣き叫ぶことだ。取返しのつか
ない事をしてしまった、と。


その場面で私は別の映画を思い浮かべた。
フェリーニの「道」である。
知恵遅れのジェルソミーナ。
ザンパーノがみせる慟哭のラストシーン。

あとで調べてみたら、どちらも同じ1954年の製作であった。
全くの偶然だろうけれど、日本とイタリアで同じようなモチーフ
の映画が創られていたとは、なんとも奇遇である。


さて、ツルを描く新藤は、フェリーニとは違って、男が後悔する
場面で映画を終わらせていなかった。

ラストシーンはこうだ。
葬儀が終わって数日が過ぎる。
部落の少女が花を携えてピンちゃんのバラックに歩いていく。
部屋に置かれたツルの位牌に花を置き、手を合わせる。
カメラはパンして、開かれた窓越しにどぶ沼の遠景をとらえる。
伊福部昭の静かな音楽がそれに重なる。
そして、エンドマークが浮かぶ。


新藤兼人は、さいごまで女の姿を描く映画作家だったのだ。