映画 鑑定士と顔のない依頼人 ☆☆☆

■ LA MIGLIORE OFFER   THE BEST OFFER
      2013年 イタリア 131分 (ミリオン座)
■ 監督・脚本 ジュゼッペ・トルナトーレ
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今年見納めの映画は、原題が「最高の付け値」という作品。
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邦題はミステリー色を強調するような長いタイトルだが
それに拘泥すると
この映画の風合いであろう「人生の皮肉」というものが
損なわれてしまうようだ。
              *
映画の圧巻は前半。
鑑定士ヴァージルが、姿を見せない女性依頼人に立腹憤慨し、
癇癪玉を爆発させる様がいい。
彼の仕事に対する意地とも思えるような熱意、
鑑定界での高い評価がもたらす尊大な表情、
(私を誰だと思っているのか!)とついに気持ちを沸騰させるのだ。
              *
映画美術も素晴らしく、編集も冴えているが、
ストーリーの着地の仕方は凡庸。
すでにどこかで観た映画と同じ仕掛けで、軽い失望感を覚える。
と同時に、
そんなに巧くいくのだろうかと、仕掛けの粗さが見えてしまう。
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あのような仕掛けをしなくても、十分に見応えのある映画に
なったはずなのに…
まことに惜しい。 
        



 

映画 ブランカニエベス ☆☆☆★ 

■ BLANCANIEVES 2012年 スペイン/フランス 104分 (ミリオン座)
■ 監督・脚本 パブロ・ベルヘル
■ 撮影 キコ・デ・ラ・リカ

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まず、モノクロでサイレント(音楽は付いている)映画にしたことが、
衆知白雪姫物語を、異様な輝きを放つ奇譚に変えたのだと言えよう。
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父アントニオの闘牛シーンでの外連味を利かせたモンタージュといい
彼の死骸を隣に置いて、笑いながら記念写真をとる人々のショットと
いい迫力満点で、奇妙な印象を残す映像だ。
白黒の画面は、人々の目付きや口元を鮮明に強調するのだ。
継母の媚びるような醜悪な表情が強烈な印象を私たちに与えるのも、
白黒効果だ。
毒リンゴで死の床に就いたカルメン(白雪姫)を見世物の道具として扱う
シーンもモノクロールでなければ、あれほど奇態な印象を与えず、尋常
なもので終わっただろう。
            *
それとは対比的に、幼少期のカルメンは、いかにも初々しく
生気に満ち満ちている。生の輝きを放っている。
少女の持つ清新な表情と、けなげな動き(フラメンコ踊りや闘牛士の
仕草)が映画の中で、明るさを保っている。
モノクロだからこそ、照明の効果で、少女の明るさが強調されるのだ。
            *
撮影は、キコという人。
怪作
「気狂いピエロの決闘」をとったカメラマンだ。
それは凄惨なショットが散りばめられた興味深いカラー映画だったが
この「ブランカニエベス」は、ハイコントラストのモノクロール映画。
夢魔的なショットは、私たちの記憶に残さずにはおかない。



映画 清須会議 ☆☆☆

■ 2013年 東宝 138分 (ピカデリー)
■ 監督・原作・脚本 三谷幸喜

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おふざけで、はちゃめちゃなドラマなどと、一言で
片付けられない面白さがある映画だった。 
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役所広司の柴田勝家も、大泉洋の秀吉も、
なかなか魅力的な人物として描かれている。
一方は、打算を知らないどうしようもない突貫的武将で
一方は、御し難いほどの上昇志向に支配された大袈裟な男で
それに左右される同輩、家来、眷属の動きがたまらなく可笑しい。
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でも、それが、重厚で、しかつめらしい時代劇よりも、
ずっと、歴史の本当のところを言い当てているのではないか。
そんな感じを抱かせる映画なのだ。
            *
清須会議は、勝家と秀吉との対立を単に描いたのではない。
盟友の丹羽長秀や、腹心の前田利家が、勝家という男に
やむを得ず見切りを付ける瞬間を明らかにした物語でもある。
また、お市や松姫の女の執念の凄さをとらえた映画でもある。
それも、三谷幸喜の独特の可笑しさで…。 
            *
本能寺の変が6月2日。
清須会議が6月27日。
勝家が秀吉に滅ぼされるのが翌年4月。
翌々年4月、佐藤浩市の池田恒興が長久手で討死。
さらに次の年の春、小日向文世の丹羽長秀は病死。
そして、秀吉は、清須会議から16年の後、没する。


            
                

おじいちゃんの里帰り ☆☆☆★

ALMANYA-WILLKOMMEN IN DEUTSCHLAND
  2011年 ドイツ/トルコ 101分 (シネマスコーレ)
■ 監督 ヤセミン・サムデレリ
■ 脚本 ヤセミン・サムデレリ  ネスリン・サムデレリ

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長編デビュー作。
女性監督が、実生活をもとに妹と共同で脚本を書き上げたそうだ。
トルコから離れ、ドイツでの生活に感化されていく家族たち。
それは、確かに便利で清潔で新しい暮らしではあるのだが。
笑わせ、考えさせ、感じさせる作品だ。
           *
トルコでの生活、ドイツでの出稼ぎ、ドイツでの暮らし、そして帰郷。
4つの時間的の流れを、心地よく調和させて飽きさせない。
           *
ラスト近くで映し出される見晴らしのよい空き地でのシーン。
観客が思わずにんまりとするような映像で、
映画的なカタルシスをじっくりと味わわせてくれるのも嬉しい。
           





映画 ミリオネア・オン・ザ・ラン ☆

■ A MILLIONAIRE ON THE RUN
     2012年 韓国 107分 (シネマスコーレ)
■ 監督 キム・イクノ

 
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1年間に一度出合うか、出合わないかという映画だろう。

話の展開も、登場人物も、映像も、陳腐で退屈。
ドタバタ追走劇なら、観る者にあっと言わせる工夫がほしい。







 

映画 ゼロ・グラビティ ☆☆☆☆

■ GRAVITY 2013年 アメリカ 91分 (MOVIX三好)
■ 監督 アルフォンソ・キュアロン
■ 脚本 アルフォンソ・キュアロン  ホナス・キュアロン
■ 撮影 エマニュエル・ルベツキ
■ 視覚効果監修 ティム・ウェバー

   
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観客は、たちまち地上600kmでの事故に直面し、
サンドラ・ブロックとともに、孤絶の空間に放り出される。
地球が見える距離であるのが、殊更おそろしい。
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宇宙に流され、置き去られる恐怖。
何か獅噛み付く物はないか!
握る。
掴む。
捻る。

         
超速でぶつかって来る破片群のおそろしさ。
どう避けるのか!
叫ぶ。
震える。
慌てる。

閉ざされる帰還への経路
迫る酸欠燃料切れ!
這い出る。
潜り込む。
乗り出す。
         *
驚きの映像はどのように撮られたのか。
自由自在、縦横無尽に動くカメラワークが素晴らしい!
この作品でのサンドラは感動的で、
映画の長さも、その内容にふさわしいものだった。


映画 セイフ ヘイブン ☆☆★

■ SAFE HAVEN 2013年 アメリカ 116分 (名演小劇場)
■ 監督 ラッセ・ハルストレム
■ 原作 ニコラス・スパークス
■ 
脚本 ダナ・スティーヴンス ゲイジ・ランスキー

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観終わった後に残る違和感はどうしたものか。
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謎を巧みに引っ張るサスペンスとしての盛り上げ方は
悪くはないし、
ストーカーに追われる側の恐怖感も観客にぞくぞくと
伝わってくる映画なのだが…。
ラストに明かされる「種」に、アンフェアな違和感を覚
えるのは、私だけだろうか。
ファーストシーンから始まるシリアスな基調は消え去り、
最後に、この映画はファンタジーなのです。
と明かされるような、肩すかしを食らう違和感…。
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愛すべき映画「ギルバート・グレイプ」を撮った監督
の作品としては、どうしても軽い失望感が…。

映画 もらとりあむタマ子 ☆☆☆☆ 

■ 2013年 78分 (センチュリーシネマ) 
■ 監督 山下敦弘 
■ 脚本 向井康介
■ 出演 前田敦子 康すおん

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観たシーンを思い浮かべて、ぷっと吹き出す。
そのような映画をしばらく観ていない。
ところが、久しぶりにそんな映画を観たのだ。
それが「もらとりあむタマ子」。
            *    
“もらとりあむ”という馴染みの薄い言葉が付く
題名なので、観ることをためらう人は多いのかも
知れない。
しかし、観ないと損をする映画である。
なかなか只者ではない映画なのだ。
            * 
脚本と演出は絶妙と云ってよいし、
映画のキャラクターと出演者がぴたりハマっている。
とくに、タマ子と父親の善次、中学生の仁の3人は絶品。
            *
山下作品では「松ヶ根乱射事件」(06年)が素晴らしいが、
この映画、それに勝るとも劣らずだった。
「もらとりあむタマ子」のような作品こそ、ヒュ-マンドラマと
私は呼びたい。

DVD 誰がために鐘は鳴る ☆☆☆


■ 
FOR WHOM THE BELL TOLLS 1943年 アメリカ 130分 
■ 監督 サム・ウッド
■ 原作 A・ヘミングウェイ
■ 主演 ゲーリー・クーパー イングリッド・バーグマン

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原作ヘミングウェイ。舞台は内戦のスペインである。
映画の製作は米国で、会話言語は英語だ。
有名な映画だが、初めて観た。               
          *     
スペイン内乱よりも、美男美女のロマンス的な色彩が濃い。
それでよいのかも知れぬ。
二人の美貌は、確かに魅力的であるのだから。 
ただ、惜しいのは
当時クーパーは42歳、バーグマンは28歳
劇中の人物としては、やや歳が過ぎている感があるのだ。
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二人の最良作は、たぶん
クーパーの方は、10年後の53年に主演した「真昼の決闘」で
バーグマンは、匂い立つような美しさが圧倒的な、
42年の「カサブランカ」と、44年「ガス燈」だろう。
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閑話休題。
映画としては、悪くはない作品だ。
リバイバル時の宣伝コピー
「壮大なスケールと鮮烈な感動でつらぬく永遠の大ロマン!
 動乱のスペインに炎と燃えさかる若き二つの魂
 ノーベル賞作家ヘミングウェイが描いた愛と死の4日間!」
に(「若き」の箇所以外は)大きな誤りはない。