映画 ふたりのアトリエ ~ある彫刻家とモデル ☆☆☆★

■ EL ARTISTA Y LA MODELO
       2012年 スペイン 105分 (名演小劇場)
■ 監督 フェルナンド・トルエバ
■ 
出演 ジャン・ロシュフォール アイーダ・フォルチ
       クラウディア・カルディナ-レ  
  
第二次大戦下で、創作のエネルギーを再燃させんと
する孤高の彫塑家マーク。
            *
端正なモノクロール画面で描かれる芸術家のインス
ピレーションの芽生えさせ方が、興味深い。
            * 
かってのモデルで、現在は年老いた妻のリーからは
創作の霊感を受けることはもうないのだろう。
若く美しい肢体をもった女メルセ。
若い頃には美しく魅惑的な肢体であったリー。
メルセ役のアイーダの裸体も素晴らしいが
リーを演じるクラウディアの存在感も素晴らしい。
           *
ラストシーンも、芸術家の孤高を暗示して、印象的だった。 

ついでながら、邦題については一言述べておきたい。
(メインタイトルの邦訳は、ズレているとしか思えない。
 だれがどんな感覚でこのように付けるのだろうか)と。

 

映画 地獄でなぜ悪い ☆☆

■ 2012年 129分 (ミッドランドスクエアシネマ)
■ 監督・脚本 園子温

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このフィルムもまた、園シネマの一つなのだ。
差詰め、血笑編というところか。
            *
笑いを誘おうとする、役者たちの大げさな演技。
暴力団の殺し合いを、エンターテイメント映画
として製作することに取り憑かれた人間ども。
血しぶきを噴き上げ天井高く舞い飛ぶ腕、生首。
稚戯、独善、自己愛、そして殺戮の快楽に身を
ゆだねる狂喜の極致。
            *
しかし、傑作「冷たい熱帯魚」を超えることはなかった。

 

DVD 永遠の人 ☆☆☆☆

■ 1961年 松竹 107分 
■ 監督・脚本 木下恵介
 撮影 楠田浩之
■ 主演 高峰秀子

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小作人の娘だったさだ子の30年に及ぶ確執を描いた物語。

木下の脚本は、さだ子の憎悪を書き込むことに徹底しており
素晴らしいの一言に尽きる。
勝ち気で、過去に固執するさだ子は、高峰以外には演じられ
ないほどの好演で(木下の脚本は彼女を想定して書かれた
のではないか)と思わせるほどだ。

加えて素晴らしいのは、撮影である。
阿蘇山が見える田園地帯に建つ地主の家の描写。
ごぅごぅと水量豊かに流れ落ちる渓谷の流れ。
小作人の住むあばら屋、前に広がる稲穂の波。
登場人物たちの表情。
実にていねいな撮影がされている。

往時の邦画の豊かさを見せ付けられる思いがした。

木下恵介49歳
楠田浩之45歳
高峰秀子37歳
佐田啓二35歳 仲代達也29歳 乙羽信子38歳 






映画 異母兄弟 ☆☆☆☆

■ 1957年 110分 (シネマスコーレ)
■ 監督 家城巳代治
■ 撮影 宮島義勇
■ 美術 平川透徹
■ 出演 三国連太郎 田中絹代

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シネマスコーレでの「追悼・三國連太郎」の上映作品を観る。
 
撮影、美術、演出、そして俳優陣ともに、50余年前の日本
映画の水準の高さを感じる名編だ。

とくに演技では、家父長三国の暴虐ぶりが、じつに凄まじい。
以前ブログで、三国の代表作について記したが、この映画を
観たあとでは、彼の代表作に追加しないわけにはいかない。
34歳の三国連太郎。信じられないほどの、入魂の一編。


映画 襤褸の旗 ☆☆

■ 襤褸の旗 1974年 115分 (シネマスコーレ)
■ 監督 吉村公三郎
■ 脚本 宮本研

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作り手たちの熱意が感じられる映画ではある。

しかし、分かりにくいところがいくつか残った。
もっと、詳細に描いてもよかったのではないか。
田中正造が農民らの闘争に共感するきっかけ。
鉱毒被害者たちの悲惨で具体的な姿。
離村せざるを得ない小作人たちの行く末。
耕作地を有する農民と小作人との乖離、など。

行政権力による強制執行場面は、確かに濃厚
に描かれてはいたのだけれど…。
   

映画 最愛の大地 ☆☆☆☆


■ IN THE LAND OF BLOOD AND HONEY 2011年 アメリカ 127分 (ミリオン座) 
 

■ 監督・脚本・製作 アンジェリーナ・ジョリー 


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ボスニア・ヘルツェゴビナの1992年から始まる物語。

セビリア軍兵士によって、射殺されるムスリム系の男たち。

そして、性暴行を繰り返されるムスリム系住民の女たち。

彼らは、徹底的に蹂躙される。


A・ジョリーが描こうとしたのは、その惨状そのものである。

執拗なまでに、シリアスなタッチで描写される兵士の暴虐。


元恋人同士の、ムスリム系の女画家と、ボスニア将校との、

戦時下での性愛ドラマがそれに絡むストーリなのだが、

圧殺場面のあまりにも鮮烈なため、ドラマの部分は希薄になる。


しかし、それはそれで仕方のないことだ。

このA・ジョリーの映画の価値を少しも損ねてはいない。

むしろ高めることにつながっているとみるべきだろう。
                    










DVD 北の国から 83’冬~2002遺言 ☆☆☆☆

   
 放映時間 総計 24時間57分(1497分)
    83’冬(91分) 84’夏(91分) 87’初恋(119分) 89’帰郷(133分)
    92’巣立ち(288分) 95’秘密(185分) 98’時代(310分) 2002遺言(280分)
 脚本 倉本 聰
 演出 杉田成道
 出演 田中邦衛 吉岡秀隆 中嶋朋子

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ホン(脚本)の力と 出演者の実年輪とが
幸福な出会いを果たすことのできたドラマだ。


壮大な構想を持った倉本のホン。

身が千切れるような寒風や、叩きつける雨雪や、
臭いを放つ牛舎や、むせかえるようなごみ収集作業や、
数え上げれば限のないほど多くの過酷なロケ。
それを正面から受け止め、演技する役者たちの21年間。


かくして 伝説的なテレビドラマが誕生したのだ。




BRD  スーパー・チューズデー ~正義を売った日~ ☆☆☆

■ THE IDES OF MARCH 2011年 アメリカ 101分

 

■ 監督 ジョージ・クルーニー 

 

■ 出演 ライアン・ゴズリング  ジョージ・クルーニー  

 

              フィリップ・シーモア・ホフマン

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DVD  ブルーバレンタイン ☆☆☆☆

■ BLUE VALENTINE 2010年 アメリカ 112分

■ 監督 デレク・シアンフランス

■ 主演 ライアン・ゴズリング ミシェル・ウィリアムズ

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今のディーンとシンディ。

7年前のディーンとシンディ。

絶妙のタイミングでインサートされる7年前のシーンが

今のふたりの関係をくっきりと写し出す。

夫婦。

家族。

仕事。

そして、やって来るほろ苦い現実。

ゴズリングもいいし、ウィリアムズも素晴らしい。

 

    

DVD 月に囚われた男 ☆☆☆☆

■ MOON 2009年 イギリス 97分

■ 監督・原案 ダンカン・ジョーンズ

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近未来の人類に起こるかも知れない真実を鮮やかに映像化。

謎とスリル満ちたストーリーを持ち、

人間とクローン、そしてロボットの哀しみを描いた、

凡百のSF映画を超えるSF映画。

33日間で撮った、長編第1回作品とは信じがたい出来だ。

 

 

DVD ある秘密 ☆☆☆☆★

■ UN SECRET 2007年 フランス 110分

■ 監督 クロード・ミレール

■ 原作 フィリップ・グランベール

■ 出演 セシル・ドゥ・フランス  リュディヴィーヌ・サニエ 

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ホロコーストの悲劇を巧みなストーリー展開で描いている。

これは、原作によるところが大きいのだろう。

 

映画としても素晴らしいのは、存在感のある二人の女優に

負うところが大きい。

タニア役のセシル・ドゥ・フランス。

アンナ役のリュディヴィーヌ・サニエ。

そして、フランソワの少年期を演じた子役の表情も忘れがたい映画だ。

 

映画 プレイス・ビヨンド・ザ・パインズ/宿命 ☆☆☆☆ 

■ THE PLACE BEYOND THE PINES 2012年 アメリカ 141分

                                (ミリオン座)

■ 監督 デレク・シアンフランス

■ 撮影 ショーン・ボビット

■ 出演 ライアン・ゴズリング  ブラッドリー・クーパー

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ゴズリングとクーパーの若き父親時代の過ち。

その息子たちの青春の過ち。

銃が容易に手に入る国で、

恐れゆえに

未熟ゆえに

発砲し

自己保身に走る。

 

激しい動きを見せる見事な撮影は、

登場人物たちの

荒々しい魂と

ある種の哀しみとを

感じさせてくれる。

 

DVD 星の旅人たち ☆☆☆★

■ THE WAY  2010年 アメリカ・スペイン 128分

■ 監督・原案・脚本  エミリオ・エステヴェス

■ 主演 マーティン・シーン

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この映画は、実父であるマーティン・シーンを主役に起用し、エミリオ自らも

その息子役で出演し、かつ演出も行ったという映画である。

しかも、不慮の事故で死んだ息子の生き方を、父親がやがて理解していく

という真面目な筋立てのヒューマンなタッチなのだ。

                  *    

実の親子による自作自演映画。そんな映画を観るのは初めてだった。

最後まで落ち着かなかった。

映画を撮るとき、二人は照れたりはしなかったのだろうか?

こんなに真面目な話を、ホントの親子が真面目に演じるなんて…。

自分だったら、まちがいなく恥ずかしいような気分になるだろうな。

だって、あんなにもヒューマニズムにあふれた家族映画なのだから…。

そんなことを思い思いして観たので、映画に没頭できなかった。

私にとっては、あまりにも珍品過ぎる映画だった。

映画 グランド・マスター ☆☆☆☆

■ 一代宗師 2013年 香港 123分 (ミッドランド スクエア シネマ)

■ 原案・監督  ウォン・カーウァイ (王家衛)

■ 武術指導  ユエン・ウーピン(袁和平)

■ 音楽 梅林茂 ナサニエル・メカリー     

■ 出演 トニー・レオン チャン・ツィイー

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雨の中での格闘シーンの美しさには、見惚れてしまう。

葉問を主人公とする映画も、ウォン・カーウァイの手にかかると

かくも美しい映像を生み出すのかと、驚いてしまう。

            *

重厚な武闘映画であると同時に、感情を押し隠した男女の恋情

の映画でもある。

チャイナドレスで着飾った妓楼の女たち。

流れる京劇歌のノスタルジックなメロディ。

トニー・レオンが演じる妻子ある葉問。

翳りをただよわせたチャン・ツィイーの宮若梅。

あの名品「花様年華」の男女と重なって見えてくる。

            *

123分の長さの中での完成度を高めるために、かなりの部分を

省略したのか、もっと知りたいことがいくつか残されたように思う。

それでも、武術映画に革新的な美しさをもたらした作品として、

まちがいなく記憶されるだろう。

必見の一本!

 

映画 きっと、うまくいく ☆☆☆☆★ 

■ 3 IDIOTS(三バカ) 2009年 インド 170分 (シネマスコーレ)

■ 監督・脚本 ラージクマール・ヒラニ

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おもっきり笑わせてくれるインド映画の傑作登場!

2時間50分の長尺だが、すこしも退屈することがない。

             *

ウイットに富んだ伏線が利き、セリフが見事なシナリオがいい。         

出世譚も、恋も、踊りも 明るく盛り込んだ楽天な娯楽映画。

というと、ありふれたドラマを想像しがちだが、その偏見は

みごとに裏切られるからすごい。

日本の映画ではちょっとお目にかかれない作風と出来映えだ。

わが地域では、ほぼ単館上映の状態だが、シネコンで拡大上映

してもまちがいなくヒットするだろう。

いやあ、この風刺的娯楽映画で、インドシネマを見直した!

  

ホーリー・モーターズ ☆☆☆☆★

■ HOLY MOTORS 2012年 フランス/ドイツ 115分 

                         (名古屋シネマテーク)

■ 監督・脚本 レオス・カラックス

■ 主演 ドニ・ラヴァン

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レオス・カラックスでなければできない刺激的な映画だ。

 

映画の文法に拘泥せず

映像の冒険にあふれ

迷宮をたずねて歩くような惑乱と

泣けるような叙情に満ち

観客は

めまいを感じながらも、その世界に酔う。

 

人はその人生しか選べないのか。

いくつかの人生に生きることができるのなら…。

そう、いくつかの人生を生きたいと思うのなら、

ホーリー・モーターズにきてごらん。

 


  

映画 セデック・バレ ☆☆☆☆ 

■ 賽克・巴 2011年 台湾 第一部144分 第二部132分 

                           (シネマスコーレ)

■ 監督・脚本 ウェイ・ダーション(魏徳聖)

■ 製作 ジョン・ウー(呉宇森)

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スクリーンで展開される迫力の狩猟、抗争、戦闘シーンを

目にしながら、観客は否応なく考えさせられるだろう。

 

「霧社事件」は、80年余前の台湾における抗日事変だったが、

世界の各地で今もなお似たような抗争は続いている。

中近東でも。アフリカでも。そのほかの地域でも。

そのみなもとは、すなわち

群れ(部族・民族・国)の主張するidentityとterritory。

それを守るのための(それぞれの立場での)聖戦という名の戦さ。

流される勇者の血。あるいは名もなき人間たちの血。

そして、支配と服従、identityの蹂躙。

 

それらの意味を問うために

「セデック・バレ」の、

生首が転がる凄惨な迫力は、必要だったにちがいない。

 

DVD ロボット ☆☆☆★

■ ENDHIRAN 2010年 インド 139分

■ 主演 ラジニカーント

■ 監督 シャンカール 

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製作費はさぞや膨大だったろうと思わせる超のつく娯楽映画だ。

ラジニカーントが主演した「ムトゥ踊るマハラジャ」(1995年 DVD)

は、私にはたいくつだったが、「ロボット」は最後まで楽しめた。

最後の展開は、これでもか、これでもかの映像が大盛りで、インド

娯楽映画の神髄とでもいうべきか。

ロボットの悲劇・悲恋が、あっけらかんと劇画調で描かれた秀作!

 

 

 

DVD ルート・アイリッシュ ☆☆☆☆ 

■ RROUTE IRIRSH 2010年 109分 

      イギリス/フランス/ベルギー/イタリア/スペイン

■ 監督 ケン・ローチ

■ 脚本 ポール・ラヴァーティ

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中東で起こされている戦争。

の作品の脚本は、ときに熱く、ときに冷静に、その現実を示す。

国家の兵士でもなく、職業傭兵でもない、戦場を職場とする民間兵。

その抱える苦悩の複雑さ。

夜ごとうなされる悪夢は想像もできないほど怖ろしいに違いない。

一方、テロリストと誤認され、射殺されるイラクの人々の悲惨は

く、硝煙の中で流れる血は日常的な風景とさえなっている。

それらを映すべく止むに止まれぬ思いの詰まった映画、

「ルート・アイリッシュ」。

 

 

 

 
     

映画 戦争と一人の女 ☆☆☆

■ 2012年 98分  (シネマスコーレ)

■ 監督 井上淳一

■ 原作 坂口安吾

■ 出演 江口のりこ 永瀬正敏 村上淳

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大平の子供が左手に箸をもって食べるシーンが

この映画で最も強く脳裏に残ったのはなぜだろう。

DVD ハンター ☆☆☆★

■ THE HUNTER 2011年 オーストラリア 100分

■ 監督 ダニエル・ネットハイム

■ 主演 ウィレム・デフォー

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すでに絶滅したといわれるタスマニアタイガーを追う男

ウィレム・デフォーが素晴らしい。

製作時に56才のデフォーはほおが痩け、孤独の面影がただよう。

だから、タスマニアの森でひとり捕獲のわなを仕掛けるさまは絶品である。

年老いて細くなった指さきでむすぶいくつかのわな。

ガラス玉のような青いめ。

いきおいのない生えたひげ。

捕獲行動への執着。

そして、懐疑…。

                *

この映画をみて、

今のウィレム・デフォーには、

愛読するS・ハンターの小説の主人公ボブ・リー・スワガーを

ぜひ演じてほしいと思った。

 

DVD どこまでもいこう ☆☆☆☆★

■ 1999年 75分

■ 監督・脚本 塩田明彦

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少年を描いた日本映画で最もすぐれた作品のひとつである。

学5年生。

割り符の1万円札。

夜空にはしるロケット花火。 

団地の部屋のまどからとばす紙ひこうき。 

             * 

「等身大の少年」という表現がまさにふさわしいといえる

日本映画は、 

「鉄塔武蔵野線」(1997 監督 長尾直樹)と 

「どこまでもいこう」の2本しか知らない。 

秀作ではなく、傑作!

 

 

 

映画 天使の分け前 ☆☆☆

■ THE ANGELS' SHARE 2012年 

  イギリス/フランス/ベルギー/イタリア 101分 (ミリオン座)  

■ 監督 ケン・ローチ

■ 脚本 ポール・ラヴァーティ

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映画のあと味は、極上のスコッチとはほど遠いものだった。

前半部のひりひりするようなシビアな設定。

後半部の放念しきったような楽観的な着地。

この大きな落差が生む違和感。

          *

この映画で、はっと息をのむ最も印象的なシーンは、

主人公ロビーに半死半生の目に遭わされた青年が

事件当時の状況を、嗚咽をこらえながら説明するく

だりであり、そして、それを聞きながら痛恨の念を新

たにするロビーの表情である。

しかし、それが、後半につながっていかない。

痛恨が哀憐に、加害が報償に転換しないのだ。

映画で描かれるのは、ロビーのテイスティングの才能。

そして、小悪党らしい小細工。

         * 

ロビーが「天使の分け前」を与えた相手はハリーだったが、

真に「天使の分け前」を贈る相手は、そうではない。

その将来を奪われた青年を、ロビーは完全に忘れている。

思い出すことさえも無いようだ。

 

そのように描いた映画に芳醇な香りは漂わなかった。

 

映画 最終目的地 ☆☆☆☆

■ THE CITY OF YOUR FINAL DESTINATION 

  2009年 アメリカ 117分  (瀨戸蔵 つばきホール)

■ 監督 ジェームズ・アイヴォリー

■ 原作 ピーター・キャメロン

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自殺した作家ユルスの伝記の執筆をめぐって、

照らしだされる作家の兄、妻、愛人、兄のパートナー。

そして、執筆をこころざす青年とその恋人。

その6人の生のありよう。

               *

この映画のよさは、俳優たちの存在感が素晴らしいことだ。

アンソニー・ホプキンスの表情やしぐさの何と豊かなこと。

長く生きてきた人の妙味といったものを感じさせる。

真田広之は日本映画では見せなかった自然の演技が抜群。

複雑な心境で日々を暮らす未亡人役のローラ・リニーにもこ

ころひかれる。

               *

81歳。ジェームズ・アイヴォリー監督。その意欲と力量に敬意!

 

DVD キラー・インサイド・ミー ☆☆☆☆★

■ THE KILLER INSIDE ME 2010年 アメリカ/スウェーデン/

                         イギリス/カナダ 109分

■ 監督 マイケル・ウィンターボトム

■ 原作 ジム・トンプソン

■ 主演 ケイシー・アフレック 

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凄まじいストーリー。リアルな演出。ともに抜群。

それにもまして、保安官助手役のケイシー・アフレックが素晴らしい。

             *

ねばりつくようでいてクールな響きのある、独特の声いろ。

すこしゆがめながら話す口元。

何を腹のなかに秘めているのか、頭でなにがうごめいているのか。

他者に微妙な屈折感をいだかせる若い保安官助手ルー。

あの主人公を演じられるのは彼しかいない。

               *

「ジェシー・ジェームズの暗殺」(2007)の青年ロバート役

ゴーン・ベイビー・ゴーン」(2007)の私立探偵パトリック役

の彼も同様だが、

「キラー・インサイド・ミー」でも、実在感のある人間を演じている。

これからも、どんな人間をみせてくれるのか。期待小としない。

 

 

DVD おとなのけんか ☆☆☆★

■ CARNAGE 2010年 フランス/ドイツ/ポーランド 79分

■ 監督 ロマン・ポランスキー

■ 原作 ヤスミナ・レザ

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こどものけんかに、へたなおとながへたに介入すると、

招く事態はかくの如しの、最悪でうんざりする一例。

これは、現実に

ありえないようで、ありうる展開なのか。

ありうるようで、ありえない曲折なのか。

           *

この映画ほどではないが、前者のような出来事を目に

したおぼえが、私には複数回ある。

だから、「おとなのけんか」は説得力のある映画だとは

思う。

そう思うが、しかし、むねの悪くなるような描写はたと

えポランスキー監督といえども、どうしたものかと

をひねってしまった。

あれは露悪趣味過ぎマス。

 

映画 悪人に平穏なし ☆☆☆☆

■ NO HABRA PAZ PARA LOS MALVADOS 

        2011年 スペイン 114分  (名古屋シネマテーク)   

■ 監督 エンリケ・ウルビス

■ 脚本 エンリケ・ウルビス ミシェル・ガスタンビデ

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悪徳警官を題材にした映画や、テレビドラマはゴマンとある。

しかし、映画「悪人に平穏なし」は、主人公がおのれの悪事隠蔽に

奔走する中で、思わぬ謀略に出くわしてしまうという作劇の面白さ

が新しい。

加えて、日本のドラマにありがちな子供っぽいドタバタタッチはいさ

さかも見せず、重厚な大人の演技で全編がつらぬかれている。

薄っぺらなところが全くない。

加速するサスペンスと、爆発するバイオレンスが、じつに心地よい。

               *

たしかに刑事サントスは警官失格かも知れないが、

彼にも言い分はあり、それも二言三言ではすまないはずだ。

まちがいなくイスラム派テログループは卑劣かも知れないが、

彼らなりの理屈は、しこたまあるに違いない。

だが、そうであっても、非情なひと言で片付けられてしまうのだ。

悪人に平穏なし、と。

 

DVD 三重スパイ ☆☆☆☆★

■ TRIPLE AGENT 2003年 フランス 115分

■ 監督・脚本 エリック・ロメール

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この映画で、久々にひとつのことばを思いおこした。

「韜晦」(姿を隠すこと。才能・本心などを包み隠すこと。)だ。

                *

スペイン内乱の勃発。

起こるかも知れぬ予感のただよう第二次大戦を前にして

ロシアからの亡命者フョードルは、パリでいったい何を画策しているのか。

出張と称して、ドイツやベルギーを訪れる目論見は何か。

ナチスドイツとの連帯?対フランス共産党の諜報?母国ソ連共産党への接近?

                *

彼のミステリアスな言動とはうらはらに、

ロメールの映像は、フランス印象派の絵画のようにみずみずしく、

登場する女性たちも前世紀の美しさに輝いている。

それゆえに

フョードルの韜晦はますます謎めくのだ。

そこに、監督ロメールの映画の凄さがあるように思えてならない。

 

映画 コズモポリス ☆☆☆☆☆

■ COSMOPOLIS 2012年 フランス/カナダ 110分

                                               (センチュリーシネマ)

■ 監督・脚本 デヴィッド・クローネンバーグ

■ 原作 ドン・デリーロ

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今まさに、世界の経済の実体は不気味な生き物のようだ。

コンピュータのモニターには、為替の変動が刻々と映し出される。

その生き物は、むくむくと増殖し、変形し、消滅する。

あれよあれよで儲け、あれよあれとで損をする。

世界中の、どの町も、異形の生き物が蠢く国際都市。

底知れない虚無感と退廃感を生み、

じわじわと首すじをはい上がるような焦燥感に満ちる国際都市。

                *

その来るべき予感を見事に描く

クローネンバーグの魔術的な映像がたまらない!

 

 

 

映画 舟を編む ☆☆☆★

■ 2013年 133分 (MOVIX三好)

■ 監督 石井裕也

■ 原作 三浦しをん 

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2時間余の長さの映画にしては、あまりにも調和的な話運び、あまり

にも平凡な終わり方は、正直つらかった。

                *

国語辞書の編纂作業にたずさわる人たちに興味はあったし、その完

成までの過程にも少なからずの関心を抱いて、この映画を観た。

しかし、膨大な作業ゆえの懊悩や、必ずやあったはずの幾多の挫折

の淵の深さは、どうしても映画からは感じられなかった。描き切れて

いないのだ。だから「大渡海」という辞書の名も、やや空疎に響いた。

                *

それでも、この映画でみるべきものはある。

ベテラン俳優たちのキャスティングのよさである。

Img4

特に、印象的なのは、タケを演じた渡辺美佐子。表情の豊かさ。

たしかな存在感。これぞベテラン。