映画 まるでいつもの夜みたいに ☆☆

■ 2017年 74分 (名古屋シネマテーク)
■ 監督・撮影・編集 代島治彦
■ 出演 高田渡 中川イサト 中川五郎

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フォーク・シンガー高田渡のドキュメンタリー映画である。

内容は、2005年3月27日に東京で行われた最後の
ミニハウスでの公演と、彼の死を惜しむ友人のインタ
ビューから構成されている。

高田渡は、同年4月3日北海道でのライブ後に倒れ、
16日入院先の病院で死去した。56歳没。

12年後の今年にこの映画が製作された理由を私は
知らないが、映画の撮り方も、録音も、編集も、全体と
してはこれと言って目を引くような出来とは思えない。
ただひたすら高田渡の唄う姿をフィルムに残したいと
いう思いの強さは感じなくもなかった。


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私はなぜこの映画を観たいと思ったのだろう。
彼のしみるような唄声を今もウオークマンでとき
どき聴く私は、懐かしさゆえか、最期のライブを
聴きたいとの思いゆえか。
酒好きの彼の唄をスクリーンで聴くには、こちら
も酒を飲むのが礼儀というものだ。そう思って缶
ビールをひとつあおって映画館へ行った。


さて、高田渡の唄を直接聴いたのは、2000年
12月6日の名古屋・栄・アートピアホールでの
「五つの赤い風船コンサート」でゲストとして登
場し、「夕暮れ」ほか2~3曲を唄った時である。
高田はやや酩酊気味だったが、調子をくずさず
最後まで唄い、会場の人たちも皆ほっとした顔
を見せたのをよく憶えている。

ところで、彼の仲間だった加川良もつい最近の
4月5日に病没した。
良の声質が好きだった私は2006年5月4日
名古屋・今池のライブハウスTokuzuで「教訓
Ⅱ」の熱唱を聴いたことがある。それとても 
過去の1ページとなってしまった。


閑話休題、この映画のことである。
ごく普通のドキュメンタリー映画であることに
がっかりしたかと言うとそうでもない。
高田渡の「風」を唄う姿と声が胸に迫り、ここ
ろのふるえるのを感じたのだ。
観に行ってよかったと思った。


   頭の上を吹く風よ

 
仲間がいま 何をしているのか きかせてくれ
 彼はいま 何を見ているのか
 もうひとりの彼は 何を考えているのか
 遠くの彼は だれと心を通じているのか

 あのひとの目は 何を言おうとしていたのか
 そんな気持ちが唄に 歌えたらな
 そしたら ぼくはぼくに なれるのにな

     「風」より  作曲・イギリス民謡
             作詞・朝倉勇
                         唄・高田渡

高田渡も、加川良も、その唄声は私のなかに
消えることなく残っている。


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映画 台北ストーリー ☆☆☆☆

■ 原題 「青梅竹馬」(幼馴染) Taipei Story
  1985年 台湾 119分 (シネマスコーレ)
■ 監督 エドワード・ヤン(楊徳昌)
■ 製作 ホウ・シャオシェン(侯孝賢)
■ 脚本 チュー・ティエンウェン(朱天文)
       ホウ・シャオシェン
       エドワード・ヤン
■ 撮影 ヤン・ウェイハン(楊渭漢)
■ 音楽 ヨーヨー・マ(友友馬)
■ 出演 ツァイ・チン(蔡琴)
       ホウ・シャオシェン

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エドワード・ヤン監督の長編第2作目作品。

ホウ・シャオシェン監修による4Kデジタル修復版で
2017年5月から待望の日本初公開。
名古屋では、シネマスコーレ劇場での上映である。

少年野球時代の夢想をなおも引きずる布地商の阿隆。
勤める会社が買収され解雇となったキャリアの阿貞。

急速に近代化・都市化が進む台北。
商機に乗れない人々の心理と行動。

変わりゆく街の風景。
すれ違う感情。

監督ヤンの描く人々の姿と風景に
なぜかくも心を揺さぶられるのだろうか。

私たちは
たとえ変わることを選んだとしても
逆に、変わらないことを望んだとしても
現実は、思惑どおりにならない。
そう思い知らされる。

それゆえ戸惑い
打ちひしがれて
現実を受け入れる。

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その姿を共感をもってみずみずしく映し出し
人を追いやる風景の変貌をあざやかに示す
エドワード・ヤンのフィルム。
それは常に、静かで、しかし激しい。



 
  

DVD M ☆☆☆☆

■ 1931年 ドイツ 99分 (Amazon購入)
■ 監督 フリッツ・ラング
■ 原作 エゴン・ヤコブソン
■ 脚本 テア・フォン・ハルボウ
       フリッツ・ラング
■ 撮影 フリッツ・アルノ・ヴァグナー
■ 出演 ペーター・ローレ

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86年前の映画である。
しかし、今の世の中を描いている。
今の人たちの内のある感情を暴いている。


繰り返される幼女誘拐殺人。
捜査に乗り出す警察と、或る「組織」。

殺人者自身も止められない殺害欲求。
被害家族や世間の人々から噴き出す報復感情。

フリッツ・ラングは
シニカルな笑いと
独特の映像感覚
人間の内にある多様な残酷感情を
あざやかに描き切る。

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映画 パーソナル・ショッパー ☆☆

■ PERSONAL SHOPPER 2016年 フランス 105分
             (センチュリーシネマ)
■ 監督 ケネス・ロナーガン
■ 脚本 ケネス・ロナーガン
■ 撮影 ジョディ・リー・ライプス
■ 出演 クリステン・スチュワート

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この映画を観終えてふと思い出した。
私のスポーツ仲間のある女性が語ったことである。

自分は暗い部屋で人影が動くのをよく見る。
それが近づいてくるので避けようとするが身動きできない。
金縛りになったようだった。
そういうことがあるのは自分は霊感が強いからだと思うの。
その人は仲間の皆にそう話した。

皆は半信半疑の表情で首を傾げた。
私も同じだった。
それは錯視ではないのかと疑った。

でも、霊感の強い人は本当に存在するのかも知れない。
この映画の主人公モウリーンのように。

死んだモウリーンの兄。
彼からのサイン。
それを期待して待っていたはずのモウリーンだったが・・・。


どれだけの観客があのような結末を予期したろうか。
あのラストは一体何を意味しているのだろうか。

WOWOW 狼は暗闇の天使 ☆☆☆

■ 原題「SALVO(サルヴォ)」 2013年 イタリア 106分
                         
(劇場未公開 WOWOW放映)
■ 監督 ファビオ・グラッサドニア
       アントニオ・ピアッツァ
■ 脚本 ファビオ・グラッサドニア
       アントニオ・ピアッツア
■  撮影 ダニエーレ・チプリ

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原題のSALVOとは、主人公でマフィアのヒットマンの名。

それを「狼は暗闇の天使」と邦題にしたのは妙訳だ。


それはさておき、
この作品の特徴は映像がとても暗いことだ。
始めはテレビの画面調節のミスかと思ったほどである。

シーンの長さも非ハリウッド的で軽い驚きを覚える。
しかし、徐々に画面から目が離せなくなった。
ストーリー展開の行方がしだいに気になりだす。

組織とどう折り合いをつけるのか。
少女をどうするのか。


全編が音楽を排した現実音だけで展開していく映画
だからこそ際立つ主人公の行動と表情。

観終えて(映画の堪能を味わった)と気づく異色の
作品。一見の価値を十分に備えた映画である。

映画 マンチェスター・バイ・ザ・シー ☆☆☆☆

■ MANCHESTER BY THE SEA 2016年 アメリカ 137分
                  (ミリオン座) 
■ 監督 ケネス・ロナーガン
■ 脚本 ケネス・ロナーガン
■ 撮影 ジョディ・リー・ライプス
■ 音楽 レスリー・バーバー
■ 出演 ケイシー・アフレック
       ルーカス・ヘッジズ
      
ミシェル・ウィリアムズ

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C・アフレックが素晴らしい!






映画 イップ・マン 継承 ☆☆☆

■ 「葉問3」 2015年 中国/香港 105分
        (センチュリーシネマ)
■ 監督 ウィルソン・イップ
■ アクション監督 ユエン・ウーピン
■ 脚本 エドモンド・ウォン
       チェン・タイリ
       ジル・レオン
■ 撮影 ケニー・ツェー
■ 音楽 川井憲次
■ 出演 ドニー・イェン
       マックス・チャン
      

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おそらく、「葉問3部作最終章」ということになるのだろうか。


50歳を少し過ぎたドニー・イェンは、相変わらず切れ
のよいカンフーアクションを見せる。そして妻想いの
人でもある詠春拳の達人を好演している。

この映画の印象はすがすがしい。
登場する悪役たちは非道卑劣な輩たちではなく、己

の肉体で勝負することに固執でもしているのかと思う
くらいある意味フエアな男たちとして描かれている。

マイク・タイソンが演じる不動産屋フランクにしても勝
負のルールは守るし、負ければきっぱり認める。

本当に不動産屋なのだろうかと疑いたくなるような
格闘狂のナイスガイなのだ。

いずれにせよ、葉問の妻ウィンシンの存在がこの映
画では大きい。

この映画がカンフー映画らしからぬ味わい深いラス
トシーンを持ったのもそれを示して興味深い。



DVD さすらい ☆☆☆☆

■ IL GRIDO(原題 「叫び」) 1957年 イタリア 102分
                  (TSUTAYA レンタル)
■ 監督 ミケランジェロ・アントニオーニ
■ 脚本 エンニオ・デ・コンチーニ
       エリオ・バルトリーニ
       ミケランジェロ・アントニオーニ
■ 撮影 ジャンニ・ディ・ヴェナンツォ
■ 音楽 ジョヴァンニ・フスコ
■ 出演 スティーヴ・コクラン
       アリダ・ヴァリ
              ドリアン・グレイ
        
ベッツィ・ブレア

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北イタリアを東に流れるポー川の流域。

妻となるはずだったイルマから別れを告げられた労働者アルド。
娘とさすらう男の寒々とした姿。

アルドは昔の女からガソリンスタンドの女へ、そして別の若い女へと。
しかし、またさすらいへ。

閉鎖中の工場の鉄塔。
イルマの叫び。

アルドの求めたものは何だったのだろう。
イルマの求めたものは何?

男にとって女とは。

女にとって男とは。
 
アントニオーニが没して10年めの7月がもうすぐ来る。

 

NHK BS 夏の庭 ☆☆☆

■ The Friends 1994年 113分 (NHKBS 放映)
■ 監督 相米慎二
■ 原作 湯本香樹実
■ 脚本 田中陽造
■ 撮影 篠田昇
■ 音楽 セルジオ・アサド
■ 出演 三國連太郎
       坂田直樹 王泰貴 牧野憲一

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相米慎二監督の才気が随所に光る好編。


トップシーンは、雨の中の少年サッカー試合。
相米流の長回し撮影は、映画の中に観る者を徐々に誘う。

仲良し三人組も悪くはないが、彼らに時々まとわりつくカメラ
小僧が可笑しい。
あのキャラクターは相米慎二の投影かも知れないし、この
映画製作に係わった映画人たち全員のそれかも知れない。

相米映像ワールドのきらめきが眩しい。
たとえば、少年たちが井戸を覗き込むショット。
たとえば、古香弥生(淡島千景)がいっしゅん正気にもどるショット。
たとえば、喜八(三國連太郎)の廃屋を掃除していくショット。
そこには、映画の冒険が確かにあるのだ。



DVD 味園ユニバース ☆☆☆☆

■ 2015年 103分
■ 監督 山下敦弘
■ 脚本 菅野友恵
■ 撮影 高城風太
■ 音楽 池永正二
■ 出演 渋谷すばる
       二階堂ふみ
       康すおん

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主演の二人の存在感が私たちを圧倒する。

山下敦弘の演出は怖いほどに生々しい。

その生々しさの中に
人間という生きもののしぶとさと、哀しみと、
自暴自棄さと、自分を見出す力強さを描いている。

山下敦弘は健在である!



 
 

DVD 北ホテル ☆☆☆ 

■ HOTEL DU NORD 1938年 フランス 110分
                (レンタル GEO
■ 監督 マルセル・カルネ
■ 原作 ウージェーヌ・ダビ
■ 脚本 マルセル・カルネ
■ 台詞 アンリ・ジャンソン 
       ジャン・オーランシュ
■ 撮影 アルマン・ティラール
■ 音楽 モーリス・ジョーベール
■ 美術 アレクサンドル・トロネール
■ 出演 ジャン・Pオーモン
       アナベラ
       ルイ・ジューヴェ
       
アルレッティ

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映画でしばしば見られる現象がある。
それは脇役が主役を「喰ってしまう」ことである。

「北ホテル」の主役は、若い男のピエールと恋人の
ルネ。それぞれを演じる二人は当時売り出し中の
若い俳優。

喰ったほうの脇役は、中年男のエドモン(役者はル
イ・ジューヴェ)、娼婦レイモンド(アルレッティ)。

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脚本は主・脇を同等に書き込んでいる。
だが、全く違うのは、役者の存在感の大きさ。

伝わってくる役者の「厚み」が違う。
「人生を感じさせる厚み」と言っても、大げさではないだろう。

その厚みが、この作品に陰影深い味わいを与えるのだ。

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それに加えて
運河のセットの素晴らしさ。
洒落た演出。
ホテルに集う庶民を演じる役者連中のうまさ。


ああ、フランス映画はいいなぁ。
しみじみとそう思わせるカルネの映画の愉しさよ。

  

映画 ゴースト・イン・ザ・シェル ☆☆☆

■ GHOST IN THE SHELL 2017年 アメリカ 120分
              (ミッドランドシネマ名古屋空港)
■ 監督 ルパート・サンダーズ
■ 原作 士郎正宗
■ 脚本 ジェイミー・モス
       ウィリアム・ウィーラー
       アーレン・クルーガー
■ 撮影 ジェス・ホール
■ 音楽 クリント・マンセル
       ローン・バルフェ
■ 出演 スカーレット・ヨハンソン
       ビートたけし
       ジュリエット・ビノシュ

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俳優S・スカーレットの独特な無機質的表情。
それは、心と義体を括り付けたこの映画の主人公
にぴったり。


場所は、高層ビルの森のような無国籍未来都市。
時は、電脳ネットワークと義体化が極度に進む社会。

それは、リドリー・スコットが「ブレードランナー」(82年)
で既に描いた世界のはずである。

それでも、この映画は観る者をひき付ける。
なぜなのだろう。


どこまでゆくのか判らない高度な医療技術の進歩。
脳と心臓と、それ以外の肉体の損傷度のアンバランス。

真実も嘘もないまぜの電気仕掛けのネットワーク。
何かに操られているのか、操る者に知らない間に加担しているのか、
本当のことがワカラナイ。
今はもう始まっているからなのか。


それとも、繰り広げられるアクションが面白いからなのか。
作り込まれた近未来都市や人間の姿が斬新なせいなのか。

それらの全部が観る者の興味をとらえるからなのだろう。

      
 

映画 お嬢さん ☆☆

■ 「THE HANDMAIDEN (侍女)」 2016年 韓国 145分
               (センチュリーシネマ)          
■ 監督 パク・チャヌク
■ 原作 サラ・ウォーターズ「荊の城」
■ 脚本 パク・チャヌク
       チョン・ソギョン
■ 撮影 チョン・ジョンフン
■ 美術 リュ・ソンヒ
■ 音楽 キム・ヨンウク
■ 出演 キム・ミニ
       キム・テリ
       ハ・ジョンウ
       チョ・ジヌン

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この映画の見どころは何なのだろう。

極限の騙し合い?
美意識あふれる性愛描写?

確かに凝った話の構成である。
豪華なセット美術もよくぞここまで作り込んだ
と思わせるのに十分だ。

しかし、映画はいっこうに弾まない。

主要な四人の登場人物に肉体がまるで感じられ
ず、筋立てをなぞり決められたセリフを発する人
形のような演技だった。

まず、ミス・キャストが原因ではないか。

侍女は狡猾でぞっとする内面の凄さが必要なのだが
演じるキム・テリは童顔で清純な顔立ち。

お嬢様は楚々としながら強い被虐性が不可欠なのに
キム・ミニは精神も肉体も狂乱できず中途半端。

詐欺師のハ・ジョンウは非情さのカケラもなく、間の抜
けたような言動に終始し、叔父のチョ・ジヌンの残忍さ
は女に対して発揮せず詐欺師をいたぶるにとどまる。

常軌を超えた人々の世界を描く映画はずなのに、空転
している。壮大なセットも卑猥なセリフも虚しく感じられ
る。

この手の映画(快楽の世界に逆らえずのめり込んでいく
人間を描く映画)は、お膳立てをするだけではダメだのだ。

俳優の肉体を輝かせるために、演出者と演技者がぎりぎ
りと組み合うことが大切なのではないか。めらめらと燃え
上がるような共闘がもっともっと必要だったのではないか。

性愛を描いた往時の日活ロマンポルノの名作群を見よ。
たとえば監督小沼勝、主演谷ナオミの映画。
淫猥な匂いの何と濃厚なことか。
恍惚の表情の何と魅惑的なことか。

パク・チャヌク監督の次回作に期待しよう。

映画 この世界の片隅に ☆☆☆

■ 2016年 126分 (センチュリーシネマ)
■ 監督 片淵須直
■ 原作 こうの史代
■ 脚本 片淵須直
■ 作画監督 松原秀典
■ 撮影監督 熊澤祐哉
■ 画面構成 浦谷千恵
■ 音楽 コトリンゴ

 
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ブラインド・マッサージ ☆☆☆☆

■  推拿 2014年 中国/フランス 115分 (名古屋シネマテーク)
■ 監督 ロウ・イエ
■ 原作 ビー・フェイユ
■ 脚本 マー・インリー
■ 撮影 ツアン・チアン
■ 音楽 ヨハン・ヨハンソン
■ 出演 ホアン・シュエン
       チン・ハオ
       グオ・シャオトン
       メイ・ティン

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光を見る目 闇を見る目

ツアン・チアンの撮影が素晴らしい。
盲人が捉える周りの気配や、微かな風景のかたち
はこのような見え方をするのだろうかと思わせる。
さらに、男女の身体の手触り、息づかい、声までも
映像として見せてくれる。
 
ヨハンソンの音楽が素晴らしい。

彼らの心情、風のそよぎ、やさしい雨の音、南京の
町を奏でるような音楽だ。

ロウ・イエの映画は、どうして観る者の心を強くゆさ
ぶるのだろう。ときにはげしく、ときにしずかに。
そして
観客それぞれの体のなかに何かをのこしていく。
      

映画 哭声 コクソン ☆☆☆

■ 2016年 韓国 156分 (ミッドランドスクエアシネマ2)
■ 監督 ナ・ホンジン
■ 脚本 ナ・ホンジン
■ 撮影 ホン・ギョンピョ
■ 音楽 チャン・ヨンギュ
       タルバラン
■ 出演 クァク・ドウォン
       國村隼
       チョン・ウヒ
       ファン・ジョンミン

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疑え。惑わされるな。


「チェイサー」(08)、「哀しき獣」(10)のナ・ホンジン監督
の最新作である。
新作「哭声」が発する熱気も尋常ではない。
ナ・ホンジン監督の粘り濃い演出が奥に光っている。

引き千切られるように惨殺される村人たち。
事件が起こるのはいつも雨。
禍々しい殺人現場。

真相はどうだったのか。

救いはあるのか。

わめき声。
異形の人影。
不可解な行動。

粘り濃い演出で最後まで押しきるように描いた不条理劇。
それは、「チェイサー」「哀しき獣」よりも赤裸々で残酷な描
写の連続だった。

観客の私たちは共鳴するか。あるいは違和を感じるか。
それがこの映画の面白いところだ。



 

DVD 韓国ドラマ 砂時計 ☆☆☆

■  1995年 韓国SBS 全24話
■ 演出 キム・ジョンハク
■ 脚本 ソン・ジナ
■ 出演 チェ・ミンス
       コ・ヒョンジョン
       パク・サンウォン
       イ・ジョンジェ

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全24話、およそ1120分に及ぶ堂々たる長編
メロドラマである。

「メロドラマ」の辞解は広辞苑では次のように記されている。

メロドラマ【melodrama】=melodic+drama
もと、18世紀イタリアに起こった、音楽を伴奏として台詞の
朗誦を行う劇。
後に、波瀾に富む感傷的な通俗恋愛劇。



肝心なのは「波瀾」の部分だ。

80年代に起こった光州事件。
現在も続く「政治と金」、「ヤクザと政界」、「コネと出世」。
恋愛と友情、因縁と報復、義理と私憤。
反抗と僕従、家族と組織についてのドラマである。

話の中心人物は、
カジノ界の大物の娘ヘリン
ヤクザのテス
検事のユソク
そして、ヘリンのボディガードのジェヒ。




寡黙なジェヒを演じるイ・ジョンジェ
の存在感が
素晴らしく、この物語を豊かなものにしている。
感傷的な場面は多々あるが、彼の存在と光州
事件とがメロドラマに硬質さを与えている。

ドラマの終わりに近づくことが惜しまれる作品だった。



ホワイト・バレット ☆☆☆

■ 原題「三人行」 2016年 香港 88分
             (シネマスコーレ)
■ 監督 ジョニー・トー
■ 脚本 ヤウ・ナイホイ
       ラウ・ホーリョン
       マク・ティンシュー
■ 撮影 チェン・チュウキョン
         トー・フンモ
       ブライアン・チェン
■ 音楽 ザヴィエル・ジャモー
       ロー・ターヨウ
■ 出演 ヴィッキー・チャオ
       ルイス・クー
       ウォレス・チョン

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ジョニー・トーの最新作。
緊張感に満ちた展開はさすがトーだと感心する。

大部屋の病室。
入院した容疑者と監視する刑事。
病床に横たわるさまざまな患者。
彼らに対応する医師や看護士たち。

本当にこの場所で銃撃戦が始まるのか。
いつ、どのようにして?!

88分のサスペンス。
香港映画はやはり魅力がある。
ジョニー・トーは今も健在である。
深夜の観客たちはトーのフィルムに魅入った。


   

映画 肉体の冠 ☆☆☆

■ CASQUE D'OR(「金髪(の女)」の意?)
   1951年 フランス 98分  (名古屋シネマテーク)
■ 監督 ジャック・ベッケル
■ 脚本 ジャック・ベッケル
       ジャック・コンパネーズ
■ 撮影 ロベール・ルフェーヴル
■ 音楽 ジョルジュ・ヴァン・パリス
■ 出演 シモーヌ・シニョレ
       セルジュ・レジアニ

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娼婦マリーのシモーヌ・シニョレの魅力は

男を断頭台に誘う。




映画 牯嶺街少年殺人事件 ☆☆☆☆☆ 

■ A BRIGHTER SUMMER DAY 1991年
   台湾 236分 デジタル・リマスター版 
        (ミッドランドスクエア シネマ) 

■ 監督 エドワード・ヤン(楊徳昌)
■ 脚本 エドワード・ヤン
       ヤン・ホンカー
       ヤン・シュンチン
       ライ・ミンタン
■ 撮影 チャン・ホイゴン
■ 出演 チャン・チェン
       リサ・ヤン
       ワン・チーザン
       クー・ユールン

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3時間56分の長さで描いた少年譜の傑作!
そのみずみずしさ、生々しさは尋常ではない。


登場人物のすべてが映画のなかで生き、暮らし
ていることをまざまざと感じさせる畏るべきエド
ワード・ヤンのフィルム。


小四、小明、小猫王、飛機、小馬、小虎、ハニー
滑頭、山東、神経、父、母、兄、姉、妹、汪、教師
小明の母、近所の大人・・・・。
中心に描かれるのは
小四少年の感じる前途への憧れと失望。
そして、焦燥、苦悶や衝動。

監督ヤンはそれを繊細に鮮烈なショットで語ってゆく。


たとえば、繊細なショット。
小四と小明が廊下で立ち止まり会話を交わす姿
を木製の扉に写ったかげでとらえたショット。
ふたりのかげはあまりにも、あいまいではかなげ。
そこからは、揺らめくような青春の瞬間が伝わっ
てくる。一瞬の甘美で切ないとき。

鮮烈さで印象に残った圧巻のショットはこうだ。
どしゃぶりの夜、山東一味の店に乗り込み、サニー
の仲間たちが刀剣を使って報復しようとするシーン。

入った店内は停電で暗い。
襲撃仲間のひとりが小さくつぶやく。
「家へ・・・帰ってもいいかな」
(たぶん皆も心の底では怖いのだ)
それを無視して2階に上がる仲間たち。

ぼぅーと照る赤いろうそく。
浮かびあがる山東たちの顔。
気配を感じた山東が灯りをふっと吹き消す。
それを合図にわっと襲う者、襲われる者。

闇で何も見えず、滅多矢鱈に長刀を振りまわす。
その姿さえ、カメラは闇の中のままで映す。
響く怒号と悲鳴。
延々と続く暗闘のショット。



そのようなショットだけに限らない。
全編がみずみずしく、生々しく、繊細なショットで綴
られた
ヤン
の映画「A BRIGHTER SUMMER DAY」は
4時間の長さが当然のように必要だったのだ。

  

映画 THE NET 網に囚われた男 ☆☆☆

■ THE NET 2016年 韓国 116分
         (名古屋シネマテーク)
■ 監督 キム・ギドク
■ 脚本 キム・ギドク
■ 撮影 キム・ギドク
■ 音楽 パク・ソンミン
■ 出演 リュ・スンボム
       イ・ウォングン
       キム・ヨンミン
       チェ・グィファ
       イ・ウヌ

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小船のトラブルで韓国領域に流された北朝鮮の男。


韓国では予断・難詰に満ちたスパイ容疑での取り調べ。
容疑のあからさまな捏造。飴と鞭の脱北への誘惑。
その後の男はどうなる?
以上が、映画のシノプシスである。

キム・ギドク映画としては、判りやすい内容と表現を持ち
韓国と北朝鮮の分断の現状がストレート伝わってくる。
互いの疑心暗鬼がさらなる不信を深めていく現状。
さらに家族内の悲劇も深まっていく。


映画の主人公ナム・チョルは低所得者で脱北者ではないが
2017年3月1日付けのT新聞に、韓国社会における脱北者
の現状についての特集記事が載っていた。

大見出しは「韓国の脱北者3万人時代」。
「生活に失望、自殺者も」「曲がり角の定着支援策」
脱北者数の変化の棒グラフ。
2007年から2011年は年間2500人~3000人。
2012年以降は1500人に減少。
ここでいう脱北者は、北朝鮮からだけではなく、一旦中国へ
逃れて幾年か暮らした後に韓国へ渡った人々も含まれる。
監視の厳しさから判断すると、そういう人の方が多いかもし
れない。

逃れても安住の地はなく、生れた国は生きられない。
一体どうすればよいのか。

映画と新聞記事から隣国の苦悩の深さを、今更ながら
思い知らされた。

BD ハドソン川の奇跡 ☆☆☆

■ SULLY 2016年 アメリカ 96分
            (レンタル
TSUTAYA
■ 監督 クリント・イーストウッド
■ 原作 チェズレイ・‘‘サリー’’サレンバーガー
       ジェフリー・ザスロウ
■ 脚本 トッド・コマーニキ
■ 撮影 トム・スターン
■ 音楽 クリスチャン・ジェイコブ
       ザ・ティアニー・サットン・バンド
■ 主演 トム・ハンクス
      
アーロン・エッカート

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映画の原題は「サリー」。


サリー機長の判断と行動、その反芻と責任感を
公正な視点で描くイーストウッド監督の真骨頂
を感じさせる映画だ。

救出劇に熱狂する人々は大勢いるだろう。
事故調査委員会は検証と追求に努めるだろう。
機長は(副操縦士も)採った行動を何度も思い
起こし、プロとしてあれで良かったのか懊悩す
ることだろう。

それらも描きながら、イーストウッドは、プロ意識
を持った人間の敢然とした姿勢の美しさ、たくまし
さを、苦しさとともに伝えようとしたに違いない。


DVD 海と毒薬 ☆☆☆☆

■ 1986年 ヘラルド 123分
      (レンタル
TSUTAYA
■ 監督 熊井啓
■ 原作 遠藤周作
■ 撮影 栃沢正夫
■ 音楽 松村禎三
■ 美術 木村威夫
■ 出演 奥田瑛二
       渡辺謙
       田村高廣
       岸田今日子

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  熊井啓監督 渾身のフィルム




F大学病院で行われた外国人捕虜8名の生体解剖実験。


1、第一捕虜に対して血液に生理的食塩水を注入し、
  その死亡までの極限可能量を調査す。

2、第二捕虜に対しては血管に空気を注入し、その死
  亡までの空気量を調査す。

3、第三捕虜に対しては肺を切除し、その死亡までの
  気管支断端の限界を調査す。

 執刀、橋本教授、柴田助教授
 第一助手 浅井宏
 第二助手 戸田剛
 第三助手 勝呂二郎


「奴等、無差別爆撃をした連中ですよ。西部軍では銃
 殺ときめていたんだから、何処で殺されようが同じこ
 とですな。エーテルはかけてもらえるんだから眠って
 いる間に死ぬようなもんだ」

何が彼らをそうさせたのか。




実話から小説が

小説から映画へ

映画の力がひしひしと感じ取れる作品。




  
 

WOWOW 誘拐捜査 ☆☆☆

■ 解救吾先生 2015年 中国 107分 
      
(劇場未公開 WOWOWで放映) 
■ 監督 ディン・シェン(丁晟)
■ 脚本 ディン・シェン
■ 撮影 ディン・ユー
■ 音楽 ラオ・ツァイ
■ 出演 アンディ・ラウ(劉徳華)
       ワン・チェンユエン(王千源)
       リウ・イエ(劉燁)
      
ウー・ロウフー(吾若甫)

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日本劇場未公開という理由は何だろう。
犯罪映画ファンならずとも、観て損はないと
思わせる作品だ。





実際に中国で起きた俳優誘拐事件の映画化
で、拉致被害に遭った吾(ウ-)本人も脇役と
して出演しているのもお国柄なのであろうか。


映画で吾を演じるのはアンディ・ラウ。
主役である。

しかし、見方を変えれば主役はもう一人いる。
誘拐団首魁、華子(ジャン・ホワ)である。

この男、性、狷介固陋、狡猾残忍にして、他人
の命など毛ほどにも思わぬ氷の非情さを持つ。

彼の役を王千源(ワン・チェンユエン)という俳優
が演じている。

この俳優が素晴らしい。
太々しくて、緻密で、駆け引きの知恵にも長け
部下たちに蛇のごとく忌み恐れられている男
を自然に演じているのだ。

王千源がいなかったら、この映画の緊迫感は
出なかったのではないか。
この人の演技を楽しむだけでも、じゅうぶんに
この映画の価値はある。


映画 メルー ☆☆☆☆

■ MERU 2015年 アメリカ 90分 (イオンシネマ名古屋茶屋)
■ 監督 ジミー・チン
       エリザベス・チャン・ヴァサルヘリィ
■ 撮影 レナン・オズターク
       ジミー・チン
■ 音楽 J・ラルフ
■ 出演 コンラッド・アンカー(クライマー)
       ジミー・チン(カメラマン・クライマー)
       レナン・オズターク(カメラマン・クライマー)
       ジョン・クラカワー(クライマー)

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山に登らない人生なんて
       僕には想像できない


山岳ドキュメンタリー映画の最良作。


アルピニストの繊細な動作と心理の克明な描写。
再現ドラマにはない、実際の登攀記録の迫力。
山を知る者が撮った映像の鮮明さ。


映画は、ヒマラヤのメルーをめざす三人の乗る車がインド
山岳地帯の崖っぷちを疾走するシーンから始まる。


メルー中央峰のシャークスフィンと呼ばれる6600余mの峰。
これまで挑戦した世界のトップクライマーは20名。
しかし、直上ルートで頂きに立った者は一人もいない。


雪、氷、岩が連なる1200mをよじ登る体力と、テクニックと、氷
点下20度の狭い吊り下げテント内にいつ直撃するかしれぬ落
氷塊の不気味な音の恐怖をこらえ、凍ったクスクスの残飯を幾
食も口にする状況での堅忍。
そして、体調の思わぬ変化。


幾多の疲弊を経て、なお立ちはだかる500mの垂直花崗岩。
ボルトを打ち込む場所を誤るならば、剥がれた岩と一緒に三人
は1000mの氷壁を真っ逆さまに落ちていくだろう。
慎重に、冷静に、しかし時間とも戦いながら崖岩に取り付くコン
ラッド、ジミー、そしてレナン。

しかし、チームは頂上まであと100メートルというところでレナン
の体調不良が回復しないためにやむなく撤退。メルーの断念。
2008年のことである。

その後、三人に起こる三様の出来事。
冷静に、あるいは死に物狂いにそれを克服するクラーマーたち。
(このエピソードが登攀成功の喜びを倍加させる伏線となる)


2011年にふたたび三人の登攀者はメルーに挑む機会を得る。

そのさまを、カメラはとらえる。
アルピニストの行動の慎重さと明快さ。
トレーニングと体験で鍛えられた肉体と精神の様。
クライマックスを迎えようとする一歩、一歩。

頂上に初めて立った人間の口から吐き出される白い息。
全身を貫き震わせたであろう成就感に満ちた顔。
そして、険峻の美しさに輝くメルーの峰。


本物の山岳映画の誕生を心から祝福したい。


映画 からみ合い ☆☆☆

■ 1962年 松竹 108分 (シネマスコーレ)
■ 監督 小林正樹
■ 原作 南条範夫
■ 脚本 稲垣公一
■ 撮影 川又昂

■ 音楽 武満徹
■ 出演 岸恵子
       山村聡
       渡辺美佐子

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流行作家の原作を映画化すること。
それは昔も今も続いているが・・・。





遺産相続をめぐるストーリィは、文字を介して
イメージを膨らませる小説なら面白味があるか
もしれないが、視覚に訴える映画では現実ばな
れした絵空事のように思われ、作品の奥深くに
なかなか入っていけない。


死期が目の前に迫っているはずの山村聡が演じ
る裕福な老人の血色は良く、死への恐怖もほと
んど感じられない。

妻も、女秘書も、部下も、弁護士も、隠し子も、登場
人物全員が、金と色しか頭の中にないのは良しとし
ても、本気で策略を謀っているようには思えないミス
を皆が露呈する。


面従腹背に血道をあげる人間の姿を戯画的に描く
作品にしても小林正樹らしさを感じさせるはっと胸を
衝かれるような鋭さがない。

「人間の條件」三部作(59~61)と、「切腹」(62)との
間に撮られた「からみ合い」。
平凡なプログラムピクチャーとは、思いたくないのだが。



映画 黒い河 ☆☆☆

■ 1957年 松竹 114分 (シネマスコーレ)
■ 監督 小林正樹
■ 原作 富島健夫
■ 脚本 松山善三
■ 撮影 厚田雄春
■ 音楽 木下忠司
■ 出演 有馬稲子
       渡辺文雄
       仲代達矢
       宮口精二
       山田五十鈴

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監督小林正樹の第9作は、富島健夫の小説の映画化。

基地の町に生きる人々を描いたこの作品で注目したい
のは、登場人物を演じる俳優の存在感だ。

おんぼろ長屋の月光荘の住人たちに、宮口精二、菅井
きん、三戸部スエ、高橋よと、賀原夏子など芸達者な役
者をずらりとそろえ、一癖も二癖もある人間模様を見せ
る。


そうした俳優たちを更に上回る存在感を発揮するのが
町のチンピラ役の仲代達矢と、月光荘の因業な家主幹
子役の山田五十鈴の二人である。

仲代は、不敵を秘めた深い眼をギラつかせてたまらない
魅力をぷんぷんと撒き散らし、山田は、金歯を突き出しな
がらの高笑いが何とも滑稽で、不気味で、狡くて、喰えな
い人間を気持ちよく演じている。

仲代は4年後の61年に黒澤の「用心棒」で山犬のような
凶暴な臭いを漂わせた新田の卯之助役でさらに強烈な
存在感を発揮し、山田は同じく黒澤の「蜘蛛巣城」でマク
ベス夫人である鷲津浅茅の血塗られた狂人役で鬼気迫
る演技で観る者を魅了することになる。

役者には旬とでも言うべき、輝かしい時期があるのだろう。

「黒い河」は、仲代達矢と山田五十鈴の凄みある演技を
見ることのできる映画として記憶されてよい作品だと思う。

DVD どぶ ☆☆☆

■ 1954年 近代映画協会 114分 (レンタル TSUTAYA
■ 監督 新藤兼人
■ 脚本 新藤兼人 棚田吾郎
■ 撮影 伊藤武夫
■ 音楽 伊福部昭
■ 出演 乙羽信子
       宇野重吉
       殿山泰司

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フェミニストの新藤兼人

1954年製作の監督第6作。
主人公は乙羽信子が演じる知恵遅れの女ツル。
舞台は河童沼(どぶ)のほとりのバラック部落。

新藤はこの作品で、男の身勝手な享楽のために犠牲になって
いく女の姿を、社会の底辺に暮らす人たちのバイタリティととも
に、エキセントリックに描く。


ツルの面倒を見る徳さんにしても、ピンちゃんにしても、彼女に
ひどい仕打ちをした男たちとほとんど同じなのだ。

違うところがあるとすれば、ツルの遺体を目にした二人は、部落
の連中の面前で大声でわぁわぁ泣き叫ぶことだ。取返しのつか
ない事をしてしまった、と。


その場面で私は別の映画を思い浮かべた。
フェリーニの「道」である。
知恵遅れのジェルソミーナ。
ザンパーノがみせる慟哭のラストシーン。

あとで調べてみたら、どちらも同じ1954年の製作であった。
全くの偶然だろうけれど、日本とイタリアで同じようなモチーフ
の映画が創られていたとは、なんとも奇遇である。


さて、ツルを描く新藤は、フェリーニとは違って、男が後悔する
場面で映画を終わらせていなかった。

ラストシーンはこうだ。
葬儀が終わって数日が過ぎる。
部落の少女が花を携えてピンちゃんのバラックに歩いていく。
部屋に置かれたツルの位牌に花を置き、手を合わせる。
カメラはパンして、開かれた窓越しにどぶ沼の遠景をとらえる。
伊福部昭の静かな音楽がそれに重なる。
そして、エンドマークが浮かぶ。


新藤兼人は、さいごまで女の姿を描く映画作家だったのだ。




映画 壁あつき部屋 ☆☆☆☆

■ 1956年 製作 新鋭プロ 配給 松竹 110分 
                (シネマスコーレ)
■ 監督 小林正樹
■ 脚本 安部公房
■ 撮影 楠田浩之
■ 音楽 木下忠司
■ 出演 浜田寅彦 三島耕
       信欣二   三井弘次
       伊藤雄之助 内田良平
       小林トシ子 岸恵子

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BC級戦犯者の群像劇は、個人の意思を
圧殺する軍権力の非情を暴き出す!




安部公房が脚本を書いたせいか
随所に不条理劇のようなライティングや
サスペンス劇のようなカッティングが見られ
小林正樹の意欲の程がうかがえる。

また、小林の堅い意志に支えられた本作は
軍属上層部を痛烈に批判する視点が貫かれ
正義感にあふれている。


当時の松竹は、この作品を3年間「お蔵入り」に
したという。

今も新聞読むたび感じるのは、
アメリカに遠慮する態度を見せる日本の政治家。
あたふたと恭順の姿勢を示す日本の企業経営者。
60年前も今日も何ら変わっていないように見える。


戦場に駆り出されて理不尽に処断されていった
名もなき普通の人たち-日本のBC級戦犯者。

DVD 娘・妻・母 ☆☆☆

■ 1960年 東宝 123分 (レンタル TSUTAYA
■ 監督 成瀬巳喜男
■ 脚本 井手俊郎  松山善三
■ 撮影 中古智
■ 音楽 斎藤一郎
■ 出演 三益愛子  原節子
       森雅之    高峰秀子
             草笛光子  団令子

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東宝のオールスターを出演させた中産階級の
家庭劇映画で、当時、客が入ったとされるカラー
作品。


嫁と姑が互いに遠慮や気兼ねを感じる場面、遺
産相続をめぐってドライな会話が交わされる場面
など、成瀬監督の上手い演出が感じられる。


私には、「養老院」から「老人ホーム」に名を変えて
いく昭和30年代中期の高齢者事情が扱われてい
るのが、興味深かった。

三益愛子や杉浦春子の演じる初老の人物が、息子
夫婦に勧められて老人ホームを見学にいくのだが、
帰り道で二人が歩きながら会話を交わす。

ちょっとあそこに入る気にはならないわねぇ。
若い夫婦と気まずくても、家の方がよいのだ。

二人は経済的に困窮していないし、健康でもある。
家の方がいいと言える境遇と時代を描いた「娘・妻・母」。

平成29年現在の老人問題の実情を、当時の脚本家や
監督は知るべくもなかった幸福な時代の映画ともいえる
作品だ。